2020.08.14
都構想調査委員会

吉村知事や松井市長は今回の協定書は前回のものをバージョンアップしたものだと胸を張っています。前回の協定書より大阪市民にとって良いものになったのでしょうか。冷静に両者を比較して、検討してみたいと思います。

新旧比較 「事務の分担」

水道事業は大阪府に移行

協定書の事務分担の記述は、事務分担の考え方が示されるのみで、具体的な事務分担はすべて別表で示されています。また、別表は特別区の担う事務の膨大な羅列で、新旧で何が変わったのかがわかりにくくなっています。

最も大きな違いは大阪市域の水道事業が、大阪府に移管されることです。これは「事務分担」の項ではなく、「公営企業に係る会計に属する財産の取扱い」の項を見るとよくわかります。

六 特別区の設置に伴う財産処分(法第5条第1項第3号関係)
1.財産の取扱い
(四)公営企業等に係る会計に属する財産の取扱い

外部リンク
大阪府:特別区設置協定書(案)P.11

旧案では「水道事業会計及び工業用水道事業会計に属するものは、特別区において一部事務組合を設置して共同で処理する事務に係るものであることから、北区が全ての特別区を代表して承継することとする」とされていました。

しかし、新案では「特別区の設置の日の前日において大阪市が経営していた公営企業等に係る会計に属する財産については、中央卸売市場事業会計、港営事業会計、下水道事業会計、水道事業会計及び工業用水道事業会計に属するものは大阪府が一括して承継するものとする」と変更されています。

特別区の設置の日の前日において大阪市が経営していた公営企業等に係る会計に属する財産については、中央卸売市場事業会計、港営事業会計、下水道事業会計、水道事業会計及び工業用水道事業会計に属するものは大阪府が一括して承継するものとする。

外部リンク
大阪府:特別区設置協定書(案)P.11

この背景には2013年5月に提案した大阪市水道と(大阪市域以外の水道供給を担う)大阪広域水道企業団との統合議案秘訣をうけて、橋下市長(当時)が大阪市水道単独での民営化に方針転換したため、旧案では特別区の事務とされていましたが、これを引き継いだ吉村市長(当時)の民営化条例案が2017年3月に廃案となったことから、市水道単独民営化の道が断たれ、再び企業団への統合に舵を切ったことがあります。

水道事業が府に移ると、これまで市議会で議論されてきた水道料金や水道の経営形態をどうするかも、府議会で議論することになります。消防や港湾、下水道も同様ですが、特別区(現在の大阪市域)から選出される府議会議員は全体の3割しかいません。

結果、大阪市民の命のインフラというべき水道事業について、特別区民は制度的にも実態的にも決定する力を持てなくなります。大阪府に移管される水道事業の区域は現在の大阪市域(特別区の区域)のままで、特別区民が支払う水道料金で事業が運営されることにも変更はありません。