大阪都構想の経済効果は?府市報告書の計算がおかしい?単なる利権の付け替えに過ぎないという意見も。

2020.09.26
  • 大阪都構想の都構想の経済効果は最大で1兆1千億円
  • 経済効果を見積もった府市報告書の計算がおかしいとして2度にわたり訂正
  • 大阪市をなくしても利権が大阪府に移るだけとの批判あり
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大阪市選挙管理委員会は2020年11月1日に大阪都構想の是非を問う住民投票実施を決めました。

大阪市民が是非を判断する材料の一つに、都構想によってもたらされる経済効果があるでしょう。しかし、この経済効果を検討した府市報告書の計算がおかしいとの指摘があり、二度にわたって修正されます。

今回は嘉悦学園が受注した府市報告書を中心に、大阪都構想の経済効果についてまとめます。

大阪維新の会が大阪都構想を推進する経済的理由

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大阪都構想は、大阪維新の会が主張する大阪府・大阪市の二重行政を解消する政策のことです。大阪維新の会は二重行政により大阪は大きな経済的損失を出してきたと主張します。

そのうえで、二重行政の解消こそが経済的損失の回避とコストの削減につながると主張しました。

大阪維新の会が主張する「二重行政」の経済的損失

大阪維新の会は、かつての大阪府と大阪市は十分な話し合いを行わず、非効率な建設投資を繰り返してきたと批判します。その代表例として大阪府が建てたりんくうゲートタワービルと大阪市が建てたワールドトレードセンタービルをあげました。

大阪維新の会は府と市の連携が不十分な結果、似た機能の施設が別々に建てられ、かつ、その多くが破綻や売却・閉鎖の運命をたどり、1兆6千億円もの損失を出したと主張します。

本来の二重行政の意味は、行政サービスや福祉サービスなどが含まれており、ハコモノだけの話ではありません。また、バブル期においてゼネコンを中心に開発の波が押し寄せていたこともあり、その波に乗ろうとした当時の大阪府と大阪市の構図も見え隠れします。二重行政の弊害というよりかは政策の失敗です。

二重行政解消によるコストの削減

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大阪維新の会は大阪府と大阪市による二重行政を解消することで行政効率を向上させ、コストの削減につながると考えました。

2020年8月現在、大阪府知事と大阪市長はともに大坂維新の会が押さえています。そのため、大阪府と大阪市はしばしば協議を行い、共同で事業を行ってきました。これにより、従来よりも無駄が減ったと大阪維新の会は考えています。

現在、吉村知事、松井市長はいずれも大阪維新の会に属しています。両者の間で連携は図りやすく、二重行政は解消していると松井市長が議会で明らかにするなど、都構想を特に実現させなくても二重行政の解消は可能ではないかという指摘が見られます。

嘉悦学園による経済効果の試算

大阪府と大阪市は大阪都構想の経済効果を算出する事業者を公募しました。その結果、大阪府・市は学校法人「嘉悦学園」を事業者として選定します。委託を受けた嘉悦学園は大阪府・市に報告書を提出しました。

大阪都構想の経済効果は1.1兆円

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嘉悦学園の報告書では、大阪都構想を実現した場合、10年で最大1兆1千億円強の歳出削減が可能としました。大阪維新の会は、大阪都構想の効果が学術的に証明されたとして高く評価します。

大阪都構想について協議する法定協議会では、この報告書に各会派から嘉悦学園に質問がなされました。

肯定的に評価する大阪維新の会に対し、自民党と公明党は大阪市から大阪府に移管される業務まで削減できる歳出とするのはおかしいとして試算のやり直しを求めます

経済効果の内訳は不透明

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嘉悦学園の報告書では、大阪市を4つの特別区に再編することによって年間1100億円、10年で1.1兆円の経済効果があると分析しました。しかし、具体的にどの項目の歳出が減るかについて報告書では詳しく説明されませんでした

そのため、法定協議会において公明党は1100億円の内訳の説明を求めます。しかし、嘉悦学園側は内訳を具体的に説明しませんでした。

嘉悦学園が府市報告書を受託したことへの批判

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嘉悦学園が府市報告書を受託したことについて、一部の市民から批判が出ました。その理由は、嘉悦学園教授の高橋洋一氏が大阪維新の会と距離が近い人物だからだというのです。

高橋洋一氏は元財務官僚でした。2001年の小泉内閣では竹中経済財政政策担当大臣の補佐官として国政に関与します。

2012年4月、高橋洋一氏は大阪市の特別顧問に就任しました。また、大阪維新の会の政治塾講師などもつとめます。こうした経歴から高橋洋一氏は大阪維新の会と近い人物とみなされがちでした。

高橋氏はTwitterで嘉悦学園が府市報告書を受託したことに自分が関与していない旨を明言しています。その上で、インターネット上での印象操作はやめてほしいと訴えました。

嘉悦学園報告書の訂正

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2019年12月、大阪市に嘉悦学園の試算では歳出が1兆円以上増加するという指摘が記された手紙が届きました。これを受け、大阪市は嘉悦学園に検証を求めます。すると、2度にわたって訂正が発表されました。

2020年2月の訂正

大阪市からの要請を受けた嘉悦学園は試算の再検証をおこないます。2020年2月、嘉悦学園は大阪府・市副首都推進局に試算に用いた数式や参考論文名に誤りがあったと申し出、40カ所を訂正します。

その一方で、大阪市に送られた手紙にあった、歳出は減らずむしろ1兆円増加するとの指摘に対して、嘉悦学園側は試算結果について誤りはないとの立場を崩しませんでした。

2020年6月の訂正

2020年6月、今度は新たに94カ所の誤りがあったと大阪府・市副首都推進局が発表しました。インフラや民間施設などの社会資本整備の効果を算定する際に用いた数式や計算のもとになったデータに誤りがあったというのが主な内容です。

新たに出された試算では、大阪市を4つの特別区に再編した場合の経済効果を最低5033億円としていたものが最低4680億円となるなど数字が訂正されました。

報告訂正に関する府・市の反応と対応

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データの誤りが見つかったことに対し、府・市副首都推進局はほかに誤りがないか再チェックをおこないます。そして、HP上で他に誤りはないと発表しました。府・市副首都推進局は、大きな方向に誤りはないと説明しています。

大阪府の吉村知事は報告書の本質に誤りはないとコメントしています。また、大阪市の松井市長も同様のコメントを発表するなど、府や市は報告書の再検証は必要ないとの立場を示しています。

経済効果に対する専門家からの批判

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毎年1100億円も経済効果があるとする嘉悦学園の報告書に対し、専門家の中から異論が出ました。嘉悦学園が採用した仮説に対する疑問があるというのです。

大阪市を解体し特別区にしても都市機能を維持する支出は減らない

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嘉悦学園の報告書では、人口に比例して住民一人当たりの歳出は減るが、ある一定の規模を越えると逆に歳出が増加し、「U字型」のグラフを形成するとしました。よって、大阪市を4分割し最適規模である人口50万人前後の特別区に再編すると歳出が削減できると分析しました。

京都大学大学院の川端祐一郎助教や一橋大学の佐藤主光教授は、解釈が誤っていると指摘します。その理由は、規模が小さくなっても道路の修繕やゴミの回収などの都市機能を維持する支出が減るわけではないからです。

一人当たりの歳出は「U字型」ではなく「L字型」で推移する

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立命館大学の村上弘教授は嘉悦学園が採用した仮説そのものに疑問を投げかけます。村上教授は、支出は「U字型」ではなく「L字型」で推移するとします。すなわち、一定の規模を越えると一人当たりの歳出は増加せず一定となるというのです。

そもそも、「U字型」の仮説は平成の大合併を促すために用いられたものでした。小規模な自治体を統合すると業務が効率化できるので歳出を削減できるという考え方に基づいています。合併の根拠となった学説を、合併の逆である分割で用いるのは無理があるというのです。

経済効果に対する自民党大阪府連・市議団の批判

大阪都構想に反対する自民党や民主党、共産党は、嘉悦学園の報告書に対し厳しい批判を浴びせました。特に、経済効果について批判を行っている自民党の主張を紹介します。

平成の大合併の流れに逆行し、行政効率が悪化する

自民党の中でも大阪都構想に強く反対してきたのは大阪市議会の自民党です。彼らは大阪市を解体し、4つの特別区に再編することは地方自治体の合併を進めてきた平成の大合併に逆行し、むしろ歳出は増加すると主張しました。

そもそも、平成の大合併は小規模な自治体を統合し大規模化することで行政効率を上げようとするものでした。大阪都構想はその動きに逆行し、行政効率を悪化させるというのです。行政効率が悪化すれば、納税している大阪市民に不利益だと考えました。

自民党は、大阪市の権限が大きすぎるなら、広域的な行政サービスは大阪府に移管し大阪市を権限の小さい中核市にすればよいとして大阪市を残すべきだと主張します。

特別区に移行するためのコストが発生する

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自民党は大阪都構想が実現し、大阪市を解体した場合、特別区に移行するためのコストが新たに発生するとしました。

その大きなものとして住所変更をあげています。インターネット上に公開されているものから、各企業が発行する書面、公的文書の書面など様々なものが作り直しになるので、公共部門でも民間部門でも余計な経費が掛かるというのです。

大阪都構想は単なる利権の付け替えというのはどういうことか

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大阪都構想の経済効果の議論の中で、大阪市を解体しても権限が大阪府や4つの特別区に移るだけで、それに伴う利権は消えないという話題が出てきました。都構想に関する「利権」や「利権」の付け替えとはどのようなことを指すのでしょうか。

大阪都構想に関する「利権」とは

大阪都構想は大阪府と都道府県と同じくらい強力な権限を持つ大阪市を解体し、大阪府の下で4つの特別区に分割し、二重行政の解消をめざすものです。そうなると、現在大阪市が持っている財源は必然的に大阪府と4つの特別区に移行します。

また、大阪市が解体されることで大阪市役所と大阪市議会はなくなります。4つの特別区に再配置される市職員はともかく、大阪市議会議員は全員失職し、新たな特別区の区議会議員として選挙に臨まなくてはいけません。

加えて、現在、大阪市が行っている事業を請け負う業者たちも新たに誕生する特別区と新契約を結ぶ必要生じます。そうなると、競争により今までの仕事を失う業者も出るかもしれません。

利権の付け替えとはどういうことか

大阪市が4つの特別区に再編されても、大阪市が担っていた公共サービスが消滅するわけではありません。これまで大阪市が握っていた権限が大阪府や4つの特別区に移行するだけという見方もできます。

反対派は、大阪市がなくなっても利権そのものがなくなるわけではなく、利権の結びつき先が変わるだけという意味合いで「利権の付け替え」と主張しているのです。

大阪都構想が既得権の破壊につながるのか、単なる利権の付け替えなのかは住民の判断にゆだねられることになりそうです。

まとめ

大阪都構想を推進する大阪維新の会は嘉悦学園が作成した府市報告書によって大阪都構想の経済的効果の大きさが裏付けられたとしました。

しかし、嘉悦学園が出した府市報告書に合計134カ所もの誤りがあったことや、嘉悦学園教授の高橋洋一氏が大阪維新の会と距離が近いことなどが批判されます。

大阪都構想に反対する自民党や共産党は、嘉悦学園の府市報告書は効果を過大に見積もっていると主張します。この報告書に対しては京都大学をはじめ多くの専門家が疑問を呈しているのは確かです。

2020年11月1日には、大阪都構想の是非を問う二度目の住民投票が実施されます。賛成・反対両派が折り合いをつけるのはかなり難しい情勢で、大阪都構想の判断は住民投票の結果次第といえるでしょう。