2020.10.02
都構想調査委員会

大阪市が廃止になれば、大阪市の水道はどう変わるのか、これまでも、大阪市と大阪府の水道事業については、様々な議論がされてきています。

最初の議論は2008年2月。当時橋下大阪府知事からの申し入れで、大阪市は水道事業の統合協議を行いました。

その案は、大阪府が行っている用水供給事業(大阪市以外の府内市長村の水道事業者に対し、用水を供給し料金を受け取る事業)を大阪市が受託する「コンセッション方式」とするもので、その際は府と市が合意したものの、府内42市町村がその案に応じなかったことから府と市の統合協議は決裂、2011年4月に新たに42市町村でつくる「大阪広域水道企業団」が府の水道事業を引き継ぐこととなりました。

大阪市
水道事業の府市統合協議終了(平成22年2月)

外部リンク
大阪市:大阪府から「大阪府域水道事業の今後の方向性について」を受領(府市統合協議終了)

大阪広域水道企業団
大阪広域水道企業団 水道事業(用水供給事業)及び工業用水道事業の事業開始(平成23年4月1日)

外部リンク
大阪広域水道事業団:企業団事業開始までの経緯

次に議論となったのは2012年6月。大阪府知事から大阪市長へと転身した当時橋下市長は、「企業団」との統合を申し入れ、大阪市を含む43市町村首長会議で統合案が承認されたことから、協議を開始しましたが、

  1. 大阪市の水道事業を廃止
  2. 大阪市の資産は全て企業団に無償譲渡
  3. 大阪市の水道料金を維持することが制度的に担保されていない など

「大阪市民にメリットがない」ことから、今度は大阪市会で統合議案が否決されました。

大阪市
大阪広域水道企業団との統合は、平成25年5月の大阪市会において、本市の水道料金が維持されることが制度的に担保されていないなどの理由から、大阪市民に全くメリットがないと判断され、否決されました。

外部リンク
大阪市:大阪広域水道企業団との統合について

すると、今度は「民営化」の検討が発表されました。これは、大阪市は公の施設を保有するものの、運営権を民間事業者に任せるとするもの(公共施設等運営権制度、いわゆる「日本版コンセッション制度」)で、民間事業者は水道事業の認可を取得し、料金の直接収入、維持管理、施設更新まで認可上みとめられた水道事業を行とするものです。

また、民営化後は、組織統合ではなく、府内水道事業の「運営一元化」をめざすとしていましたが、2017年3月の大阪市会において審議未了のまま、廃案になりました。

大阪市
審議の結果、各会派における賛否の態度がいずれも過半数に達しなかったため、第106号議案は、審議未了により廃案となりました。(平成29年3月28日)

外部リンク
大阪市:市会における審議結果について

その理由は、世界中で起こっている次のような理由があったからです。民営化について、世界を見回すと、「効率化」「技術革新」など多くのメリットがあるとされていましたが、「失敗だった」として公営に戻す動きが多くあります。

多国籍水企業本拠地のパリ市を筆頭にフランスでは106件、アメリカ61件、スペイン27件、ドイツ17件など、2017年では少なくとも267件が再公営化されています。民営化で共通して起こった問題は「水道料金の高騰」「人員削減とサービスの低下」「コストカットによる水質の悪化」などがあげられます。

また一度、民営化されたものを再公営化するには、多額のコストと労力がかかります。契約解消の違約金だけでなく、企業から巨額の損害賠償を請求されるという訴訟リスクも、多数ありました。

厚生労働省
表3 海外における水道事業の再公営化等の事例及び水道法等における対応策

外部リンク
厚生労働省:海外の水道事業における民間活用の状況等について P.11

このように、大阪府内において市町村首長会議や大阪市議会でたびたび協議されてきましたが、また「大阪府域一水道」をめざすとして、大阪市を廃止した際には、水道事業は大阪府が行うとする協議が副首都推進本部で行われています。

統合協議の時、大阪市会で「市民のメリットがない」として否決された経過はどうなったのでしょう?また、大阪府内で最も安い大阪市の水道料金が高騰することが危惧されます。

そして、その先に見え隠れする「大阪府域すべての水道の民営化」に対し、注視しないといけないのではないでしょうか。